エリート外科医の一途な求愛
ドアを二度ノックして、返事が返ってくるのを聞いてドアを開けた。


「失礼します。教授、議事録、お借りして来ました」


そう言いながら中に入ると、教授のデスクの前に先客がいた。


「お疲れ様、仁科さん」

「あ、お話し中でしたか。すみません」


議事録を抱えたまま、一度立ち止まって頭を下げる。
先客は心臓外科医局でも古株の講師、木山先生だった。


確か、今年で三十五歳になるはず。
医局内で一番多く大学講義を担当しているドクターで、臨床からは遠のいてるけど、彼の研究論文は学会でも高い評価を受けている。
教授にも気に入られているし、次期准教授は彼だと、医局員の誰もがそう思っていた。
各務先生が入局する前までは。


頭を上げた私に、木山先生はニッコリと笑う。
そこそこ精悍な顔立ちで、物腰も柔らかい。
研修医や学生の面倒見もいいし、医局内では各務先生に次いで人気がある先生だけど、私はちょっと苦手。


と言うのも、大方の予想に反して各務先生が准教授になった時、お祝い会の席で、各務先生をすごい目で睨んでたのを見てしまったから。
その目を見て、各務先生が入局してからの彼の言動に毒を感じた理由が、私にもわかってしまった。
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