エリート外科医の一途な求愛
私が中途で秘書業務に就いた時も、いろいろ話し掛けてくれて、早く馴染めるようにとみんなと一緒に食事に誘ってくれたりもした。
そういう気遣いはとても有難くて、おかげで私もすぐに医局に溶け込むことができたし、感謝しているのだけれど。


あのギラギラした憎悪に満ちた目は、普段とのギャップと言うより、内面の黒さが表れたと言う方が正解の気がして、それ以来できるだけ距離を置くようにしている。


「仁科さん、議事録、ありがとう」


教授から声を掛けられ、私は木山先生に黙礼すると、教授のデスクの前に歩いた。
そして、抱えていた議事録を両手で差し出す。


「うん。確かに」


教授は議事録を確認した後、それをデスクに置いた。
そして背後の大きな窓を、一度チラリと振り返る。


「ついさっき病院から戻ってきた各務君はだいぶ降られたみたいだけど、君は大丈夫だったのかな?」

「え。あ、はい……」


気遣ってくれただけだとわかっているのに、不意打ちで各務先生の名前を出されて、私はギクッとしながら笑顔を引き攣らせた。


「結構な濡れ鼠だったからな。雨、強いのかな?」


これから外出予定の教授が、天気を気にするのも当然のことなのに、続く言葉がいちいちグサグサと胸に突き刺さる。
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