エリート外科医の一途な求愛
正直なところ、お誘いは真剣にご遠慮したい。
上司なのに苦手意識を抱く自分を強く意識して、断ることも後ろめたい気分になる。


ところが、曖昧に濁したのがマズかったのか、木山先生は更に身を乗り出してきた。


「今日がダメ? それじゃあそうだな……週末はどう? 金曜日」

「すみません。ちょっと予定があって」


愛想笑いも引き攣るくらい、木山先生がしつこい。
それでもガツンと断れないのは、ここが医局で彼が上司だから。
医局というのは昔からの古い慣習がなかなか抜け切らず、一般企業と比べてもかなりの縦社会なのだ。


「それじゃあ……」


二度断ったのに、木山先生は次の予定を提案しようとしてくる。
さすがに困ったと思った時、私と木山先生の後ろで、カツッと靴の踵が鳴る音が聞こえた。


「木山先生。講義の時間遅れますよ」


腕組みをしながらニッコリ笑ってそう言ったのは、各務先生だった。


「え。あ、ああ……」


濡れたシャツのままで、堂々と背筋を伸ばす各務先生に怯んだように、木山先生も自分の白衣の袖口、ロレックスの時計に視線を落とす。


「え~っと……じゃあ、仁科さん。また」


バツが悪そうに妙にあたふたしていたのは、各務先生に気圧されたせいか。
それとも、ちょっと遠目から、研修医たちが好奇心たっぷりの目を向けていたからか。
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