エリート外科医の一途な求愛
思わず視線を向けた私に、彼ははわずかに首を傾げて、斜めの視線を返してくる。


「俺は『不安がらせることは絶対しない』って言ったんじゃない。『それ以上に愛してやるから、不安な思いなんかさせない』ってことだ」

「っ……」


私に向けられる各務先生の瞳の強烈な目力に、私は思わず息をのんだ。
この部屋の中にいる他の女性まで、私と同じ反応をして各務先生を見つめているのが感じられる。


「君が実際俺に愛されてみれば、口だけじゃないって証明してやれる。だから『試してみるか?』って聞いただろ」


各務先生の目が、妙に妖艶に細められるのがわかる。
薄い唇はキュッと閉じられ、黒子のある方の口角がわずかに上がる。


言葉と仕草で真っ向から誘惑されているような、危うい感覚。
足元の床が一瞬にして消え去って、深い落とし穴に落ちていくような、抗いようのない浮遊感。


私は言い返す言葉も見失って、ただゴクッと唾を飲んだ。
各務先生は、私の反応を一瞬たりとも見逃すまいというように、真っすぐ見据えたままでいる。


部屋の中にいる全員が、私が次に発する言葉を待っているのがわかる。
わかりやすい好奇心と、迷惑な期待。


私が返すべき答えは決まってる。
『ふざけないで』その一言しかないのに、声が喉に引っ掛かって、上手く口から出てこない。
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