エリート外科医の一途な求愛
「っ、ふ……」


それでもやっと最初の一言が声になったその時。
各務先生のスーツのポケットから、無機質な電子音が響き始めた。


この場の緊張感漂う空気に、一呼吸置くようなその音に、私は一瞬肩の力を抜いた。
けれど各務先生の方は私とは真逆に、眉を寄せ、一瞬険しい表情を浮かべた。


「もしもし」


取り出したスマホを操作して、すぐに応答する。
相手の話を聞くわずかな間の後、その表情に確かな緊張が走る。


「わかった。すぐ向かう」


一言短く言うと、各務先生はその場に立ち上がりながら電話を切った。
スマホをポケットに戻す彼に、高瀬さんが『先生?』と探るような目を向けている。


「首都高で大規模な事故が発生して、多数の患者が搬送されてきているそうです。緊急手術に対応できる医師が足りないとヘルプが入りました。申し訳ありませんが、これで失礼させていただきます」

「えっ……!」


各務先生からキビキビした説明を受け、高瀬さんも表情を引きしめた。
反射的に腰を浮かせる私を、彼は目線で制する。


「仁科さん。悪いが、後を頼む」


私がしっかり立ち上がった時には、各務先生は既に大股でドア口に向かい、高瀬さんに頭を下げていた。


「各務先生!」


その後を追おうと一歩踏み出した時には、彼はもう部屋を飛び出していた。
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