エリート外科医の一途な求愛
処置室では比較的軽傷の負傷者が、ソファに座って処置の順番を待っている。
担架で搬送されてきた重傷者は、次々とオペ室に運び込まれていく。


私がここに到着してから二時間近く経過したけど、各務先生の姿を一度も見ていない。
オペ室のドアの上には、ずっと『手術中』の赤いランプが点灯したままだ。


各務先生は、きっとその中で緊急手術の執刀をしているはず。
その姿を脳裏で思い描きながら、いくらか落ち着き始めた救命救急センターの待合で、私は長椅子に腰掛けた。


その途端、身体からドッと力が抜け落ちていくのを感じる。
慌ただしさの中で、座ることすら遠慮してずっと立ち尽くしていたせいで、身体が疲れていることを初めて意識した気分。
そんな自分がおかしくて、つい苦笑を漏らしながら溜め息をついた。


私、なんでここに来たんだろう。
疲れと一緒に、そんな疑問が浮かび上がってくる。


今日は土曜日。
私はもちろん休みだし、休日出勤申請も撮影に同行する為でしかなかった。
それが中止となった今、私がここに来る必要はなかったし、もちろん来たところで何もできない。


こんなとこにいても、邪魔になるだけ。
わかってるから、座ることも憚られていた。
< 78 / 239 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop