エリート外科医の一途な求愛
気持ちは急いていたのに、ソファの下に落ちていた白衣が目に留まった。
各務先生の身体に掛けておこうとして手を伸ばしたのは、完全に無自覚の行動だった。


「ん……」


その時、薄く開いた各務先生の唇から、くぐもった小さな声が漏れた。
反射的にドキッとして、中途半端な姿勢でピタッと動きを止める。
そのままそっと首を捻り、各務先生の寝顔に視線を向けた。


「……な……」


そのタイミングで、彼が何か言った。
さっきと違って何かの単語に聞こえる。
私は彼の寝言を聞き取ろうして、無意識に耳を寄せようとした。
ところが――。


「にし、な……」

「っ……」


それが確かに私の名前に聞こえて、ドッキンと鼓動が跳ね上がった途端、足を踏み出していた。
私の爪先が、ソファの脚に躓いてしまう。


「あっ……!」


身体のバランスを崩し、そのまま前につんのめった。
掴まる物を求めて手を彷徨わせる。
けれどもちろん、重力には逆らえない。


倒れる……!と覚悟した瞬間、私は反射的にギュッと目を閉じていた。
その次の瞬間感じたのは、唇に触れた何かの感触――。


「っ……!!」


それが何かは、倒れた衝撃を吸収して、目を開けた時にわかった。
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