エリート外科医の一途な求愛
大きく見開いた私の瞳に映るのは、わずかに眉を寄せた各務先生の顔。


近過ぎて焦点が合わない。
だけど、伏せられた目蓋がゆっくり開くのがわかる。


「……ん、んっ……!?」


ぼんやりと目を開けた各務先生が漏らしたくぐもった声が、私の唇を直に震わせる。
あまりのことに茫然自失としていた私も、やっと我に返った。


「なっ……仁科さんっ!?」


ギョッとしたように声を上げ、私の目の前で各務先生が大きく目を剥く。


「すっ、すす、すみませんっ……!!」


私は慌てて飛びのいて、またしてもドスンと床に尻餅をついた。


「あ、おい。大丈夫かっ?」


無様に床に座り込む私を見て、各務先生がソファの上で上体を起こした。
中途半端に起き上がった体勢で、私を見下ろしてくる。


だけど、その視線がわずかに揺れた。
多分無意識だろうけど、右手の指先が唇に持っていかれる。
そんな仕草と戸惑った瞳に、私の鼓動が煽られる。


各務先生の上に倒れこんだ私が、何をしてしまったか。
それを自覚しながら、各務先生につられるように、両手で自分の唇を押さえた。
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