エリート外科医の一途な求愛
毎週月曜の朝は、医局内朝礼が行われる。
いつもは病院に直行するドクターや研修医も、不測の事態でもない限り、基本全員出席が義務付けられている。


医療秘書の私も、事務の美奈ちゃんももちろん一緒。
いつもとえらい違いの大所帯で、狭く感じる医局。
輪番制の司会当番の研修医の声を、私は列の後方から聞いていた。


メモを取りながら目を伏せ、無意識に溜め息が漏れる。
何度目かの時、隣に並んだ美奈ちゃんが、わずかに眉を寄せながら、『葉月さん?』とコソッと呼び掛けてきた。


「なんですかー? 朝から溜め息ばっかり」


そう言われて、私は慌てて顔を上げた。
「なんでもない」と誤魔化そうとして、視界のど真ん中にバッチリ各務先生の姿が映り込んでしまう。


白衣のポケットに両手を突っ込み、真っすぐ前を向いた、姿勢のいいその姿。
私の位置から見えるその横顔に、胸がドッキンと音を立てて跳ねた。
慌てて俯いて、再びメモに集中する。


昨日の朝あんなことがあってから、顔を見るのはもちろん初めてだ。
あまりの動揺で逃げ帰ってきてしまったけど、たった一日で顔を合わせなきゃいけないなんて、なんとも気まずい。


しかも、こんな時に限って、各務先生は今日は一日医局詰めだ。
学会が近いから論文執筆の予定になっている。
そうなると私も、そのお手伝いをしなきゃいけない。
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