エリート外科医の一途な求愛
前期末試験を控えたこの時期、大学図書館はいつもより学生の姿が多い。
グループ自習室や、フロアの各所に設置されているデスクなど、どこも空きがないくらい混んでいる。


私と各務先生が向かうのは、医学関係の文献が揃っている三階のフロア。
もちろんお互い行き慣れているから、受付カウンターを素通りして奥の階段に向かう。


上から降りてくる学生たちが、各務先生とすれ違う度に『先生、おはようございます』と声を掛けていく。
女子学生の中には、わざわざ立ち止まって振り返っていく人もいるくらいだ。


それを見ながら、私はなんとなく肩を竦める。
三階に辿り着くと、真っすぐ奥の書架に向かっていく先生の背中に、小走りになりながら声を掛けた。


「相変わらず、人気者ですね」


それを聞いて、彼は肩越しに振り返る。


「女の子、立ち止まってましたよ」


続けてそう言うと、彼は前を向きながら肩を竦めた。


「ありがたいことだね」


特に興味もなさそうにそう呟いて、各務先生は書架の表示を見ることもなく狭い通路に折れていく。
その後を追う私に、各務先生は走り書きのメモを手渡してきた。


「多分、その辺。君はその本探して」


そう言って入口近くの棚を示し、自分は更に少し先に進んだ。
私もメモを頼りに、ズラッと並んだたくさんの医学書のタイトルに目を走らせる。
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