エリート外科医の一途な求愛
「なあ、仁科さん」


既に一冊手に取りながら、各務先生が私に声を掛けてきた。
私は棚に目を凝らしたままで、「はい」と一言だけ返事をする。


「土曜の夜、なんで病院に来た?」


そう問われて、私は思わずメモを持った手をピクッと震わせた。
棚から視線を外し、そっと各務先生を見遣る。


彼は本を手にしてページを捲っていた。
私の視線を感じたのか、そこから斜めに顔を上げ、私に横目を流してくる。


探られているような感覚に、私は無意識に手の中でメモを握り締めた。


「さ、撮影の中止を、お知らせしようと」


ゴクッと唾を飲んでから、私は口を開いた。


「ふーん。律儀だね」

「きゅ、休日出勤申請、半日で出したのに、一時間も経たずに終わりとか、どうなのって思ったのもあって」

「真面目だね。黙ってりゃいいことなのに」


何を言ってもサラッと一蹴されて、私は口ごもった。
そんな私を見て、彼は手元の本をパタンと閉じた。
それを小脇に抱えて、私の方に歩み寄ってくる。


「どうしたら君は素直になるかな。本当のことを俺に話してくれるんだろう」


そんなことを言いながら近づいてくる影から、私は反射的に足を後ろに引いて逃げた。


「本当の、って」

「俺の後を追ってきた、本当の理由」


そう言った各務先生の腕が、私の行く手を阻むように伸びてくる。
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