エリート外科医の一途な求愛
「そ、そんな理由で『愛する』なんて言える人、信用出来るわけないじゃないですか」


目を伏せながら、それでも言い返す私に、各務先生が眉を寄せた気配を感じる。


「各務先生が見抜いた私の前の彼も、私といる時はいつもそう言ってくれました。『可愛いよ』『好きだよ』『愛してる』って」

「……並べ立てられると歯が浮きそうなセリフだな」

「同じくらい軽々しいって、気付いてますか」


敢えて元カレの話を口にしてみたら、そっちへの不快さが勝って、私は強気を取り戻した。
両肘を抱えたまま、怯まずに各務先生を睨み上げる。


「文献探し、必要ないなら、先に戻らせていただきます」


彼に負けずに目力込めてそう言って、私は顎を引きながら軽く頭を下げた。
そして、各務先生の腕を擦り抜けて書架の間の狭い通路から外に出る。


「仁科さん」


すぐに背中から各務先生の声が追ってきたけれど、私の向かう先からは何人かの医学生が歩いてくる。
私とすれ違った彼らが、書架から顔を出した各務先生に気付いて挨拶するのが聞こえる。


「あ、各務先生! 実は医局に質問に行こうと思ってたんです。この間の講義のことで。今いいでしょうか?」


その声にそっと肩越しに振り返ると、図書館だと言うのに各務先生は学生に囲まれていた。
私は肩を竦めて真っすぐ前に向き直り、いつもより少し広い歩幅で先を急いだ。
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