暗黒王子と危ない夜
無言で見つめ合うふたりの男性を目の前に、息を吐き出すことさえ躊躇われるこの状況に
隣に立つ中島くんは気まずそうにあたしを見てから、まぶたを伏せた。
あたしたち子供が立ち入ってはいけない話だと理解しているからこそ、もどかしさや苛立ちに似た何かが心の中を彷徨う。
あたしは無意識に一歩、中島くんに近づいていた。
「……肝に命じておきます」
長く間を開け、慶一郎さんはやっと声を発した。
「ですが市川さん。七瀬は、こちらから“理由”を与えてあげないと暴走する。そうなったらいずれ壊れてしまいますよ」
「それは僕も理解している。慶一郎君のやり方は間違ってはいないがね、裁量を見直せと言っているんだ」
ふたりのやり取りはなおも続く。
ハラハラ、自分と中島くんの足元をじっと見つめたまま、時間が過ぎていく。
そして、会話が再び途切れたとき。
──カタン。と奥の通路から物音がした。
「……マスター、水貰ってもいいですか」
暖簾から顔をのぞかせたのは、他でもない本多くん。
いかにも今起きました、というように目を細めているけれど、本当はずっと大人たちの会話を聞いていたんじゃないかとか。
───この話を終わらせるために、こうやって割り込んできたんじゃないかとか。
あたしが心配することではないけれど、妙にひやりとしてしまって。