暗黒王子と危ない夜

「七瀬君、まだ寝ていないとだめだろう」


市川さんが後ろの棚からカップを取り出して、ガラス瓶に入っていた冷水を注ぐ。
本多くんは柔らかく微笑んでそれを受け取った。


「もう平気です。いつもありがとうございます」

「……あまり、無理してはいけないよ」


「分かってます。今日はおれ、もう帰りますね。相沢さんをまた巻きこんで……中島にも迷惑かけたから、謝らないと」



そこで初めて目が合った。

今日学校で会っていたはずなのに、何故かずいぶんと懐かしい感じがした。


本多くんの格好が制服じゃないからかもしれない。
黒のトレーナーに身を包んでいるせいで雪のような白肌がより際立っている。


「……データの書き換えは指示通り、こちらの情報も無事です。心配かけてすみません」


あたしから目をそらして、慶一郎さんに向き直る本多くん。



「そう、よかった。ご苦労様。今日はゆっくり休みな」

「はい。……あ。あとこれ、どの程度の価値になるかは分からないけど、」


そう言いながら、本多くんはポケットから薄いチップのようなものを取り出した。


「裏回線を使って保存されてた相手方のPCデータ……抜き取ってきたので、よかったら」
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