暗黒王子と危ない夜

慶一郎さんが「へえ」と目を丸くする。


「よくそんな余裕があったね」

「代償はスマホ一台分です」

「安いもんさ。また良いのを買ってあげるよ」

「有り難いです。ないと地味に困るから」



屈託のない笑みを浮かべて受け答えをする本多くんからは、疲れなんて微塵も感じられない。

ぱっと見た限りでは目立った外傷もない。

そんな彼の様子を見ていると、改めて疑問が浮かんでくる。



── “ 中島……助けて ”


あの声は、確かに心から中島くんを求めていたように聞こえたのに。


……本当は、助けなんて必要なかった?

電話を切ったあと、中島くんが腹を立てていたのはそういうことなの?


── “お前はそうやって、人の善意を平気で利用する奴だよなぁ ”


本多くんは中島くんを利用していた?
だとしたら、どういう意図で?

そもそも“ 利用 ”というのが、いったい何の行為を指しているのか未だにわからない。



「……中島、」


慶一郎さんとの会話を終えた本多くんが不意に呼び掛けた。


「ごめんね」


そう、たった一言。
乾いた声だった。

目すら合わせていなかったと思う。

返事を聞かないうちに、本多くんはあたしたちが入ってきた勝手口の方へと歩き出した。

< 175 / 470 >

この作品をシェア

pagetop