暗黒王子と危ない夜
また、けだるいため息をひとつ零して、中島くんは目を閉じる。
「もう一回言うけど、今のうちに休んどいた方がいーよ」
本多くんの話は、もう終わり。
「あーあ。コーラ飲みてぇなあ。……俺は寝るから、あとは時間がくるまでテキトウによろしく」
「その時間って、いつ、なの?」
「……その時がきたら起こす。ゆっくり寝てな」
それ以上は何も言わせてもらえなかった。
諦めて膝に顔をうずめる。
すると「あ、」と思い出したように中島くんが顔を上げて。
「逃げんなよ」
低い声で釘を刺した。
「なんなら、手錠あるけど」
制服の裏側から、じゃらりと取り出して見せつけてくる。
細身の体を纏っている学生服に、そんな物を隠し込んでいたなんて……。
外から見た感じではわからないけれど、きっと手錠以外の物もまだ隠されていそう。
「片手ずつ、俺と繋がる? 」
「っ、いや。大丈夫……逃げないよ」
「うん。そうじゃないと困る」
そう返事をして、今度こそ、眠りについたみたいだった。
絶対に眠れないと思っていたあたしも、規則的な呼吸の音を聞いていたら段々と瞼が重たくなってきた。
後ろの壁に背中を預けて、不安な気持ちを取り払いながら眠りにつこうと試みた
──────その時。
カサリ、と何かが床に落ちる音がした。
目を向ける。
中島くんの制服から落ちてきたと思われるそれは、白い紙のようで。
よく見てみれば便箋用の封筒だと分かった。
見てはいけないと思いつつも、無意識のうちに手を伸ばしてしまう。
だって、そこには
『七瀬へ』と。
本多くんの名前が書かれていたから。
中島くんが本多くんに宛てたものなのか。
それとも──────。
静かに裏返してみた瞬間、ドキリとする。
右下に小さく書かれた日付けは、今から7年前のもの。
表の字は達筆で、7年前の中島くんが書いたとはとても思えず。
差出人の名前は記されていないけれど、中を見なくても、なんとなく予想はついてしまった。
誰がこの手紙を書いたのか──────。
なんとなく、じゃない。
確信に近かった。