【BL】夕焼け色と君。
電車の揺れよりも少し強い揺さぶりに、瞼を持ち上げる。
「起きた?次で降りる。」
「………ん。ごめん、熟睡してた。」
「危なく服に涎垂らされるところだった。」
「嘘!?」
言葉に反射的に口元を拭う。
「…………慌てすぎ、嘘だよ。」
「お前なぁ〜〜!」
「着いた、降りるよ。」
笑う背中を追いかけて電車を降りる。
改札を抜けても笑い続ける肩を小突く。
「俺で遊ぶな。」
「だってアンタ本当に面白いから。」
ムカつく…………のに、ちょっと嬉しい。
隣で笑ってくれてるのが、嬉しい。
俺、マジで、ヤバくない………?
「ーーーい、おい!聞いてる?」
「へ?な、何?」
「少し距離があるから徒歩とバスどっちがいい?」
「あ、あー、時間あるし徒歩で。帰りバス使いたい。」
「ん。……少しここにいて。」
「え、ちょっーー」
日椎は改札前に俺を残し、駆けていってしまった。
追いかけようとしたときには、既に人混みに紛れてしまった。
な、なんだよ………。別に置いていかなくたって……。
仕方ない、大人しく待つか。
邪魔にならないよう、端の方へ移動する。
目の前をただ通り過ぎていく人達。
ついこの間まで、俺にとって日椎はこの人達と何も変わらなかった。
目の前ですれ違っても、ただの通行人。それだけ。
けれど今は違う。
歩き方、仕草、声、どれを取っても日椎だと分かる。
遠くから近付く影が、日椎のものだと認識できる。
俺にとって日椎は特別なーーー。
ーーーヒヤッとした感触が頬に当たった。
「ひっ!?」
「………ふ、ははは、変な声。」
笑いながら差し出されたのは、500mlの水。
「寝起きでぼーっとしてたから、やる。」
「あ……ありがとう……」
これ、買いに行ってたのか……。
俺のために………俺のため………って、あー、もう!
この乙女思考いやーーーー!
「山碼?どうかした?」
「何でもない!」
受け取った水を一気に流し込み、頭を切り替える。
「じゃあ行こう。はぐれるなよ。」
「……ガキじゃあるまいし。」
「山碼は子供っぽいよ。」
「喧嘩売ってる?」
横目で睨んだ日椎は肩を竦めた。
歩き始めた道中は、特に意味のないくだらない話をした。
中身はないけれど楽しい会話だった。
そう言えばと、一つ大事なことを思い出した。
「日椎のさ、連絡先教えてくれない?」
「…………知らなかったっけ?」
「それが知らないんだな。」
お互いに苦笑しながら連絡先を交換する。