【BL】夕焼け色と君。


『図書館の裏に街が一望できる秘密の場所があるの』


美凪さんが教えてくれた、日椎がいるであろう場所。


『思い悩んでる時って絶対そこにいるのよ。』


美凪さんの言葉を信じて、図書館の裏に足を運んだ。
人が通るために作られた場所ではなく、木々が覆い繁っている。
その木々の隙間から覗く小さなベンチ。
そこに腰掛けている背中は、見覚えがあった。


本当にいるし………。


その背中に近づいて、空いている隣に腰を落とす。


隣の奴は目の前の景色に目を向けたまま、微動だにしない。
俺も同じ方向へ視線を向ける。


「………大学来ないから、風邪でも引いたのかと思って。お見舞い、行ったんだけど、お前いなくて。そしたら日椎のお姉さんにあって。」


日椎と俺の間に本を置いた。



「…………これ、渡してほしいって。」
「………そ。どーも。」



久々に聞いた日椎の抑揚の感じられない声だ。



「……………ここから見える夕日も、綺麗らしいよ。」
「…………………」
「………きっと姉さんが色々話したんだろ。」
「……………色が見えないって、本当か?」
「本当だよ。」
「……………どんどん悪くなるって言うのは?」
「本当だよ。」


淡々とした返答だった。
ぎゅっと握った拳は、少し汗を掻いていた。


「…………いつか目が見えなくなるって言うのは?」
「ーー本当だね。」


俺は堪らなくなって、勢いよく日椎の前に立った。



「ーーどうして言ってくれなかったんだ!?」


日椎はゆっくり視線をあげ、それは俺のものと絡み合う。


「ほらね、そういう表情(カオ)するから。」
「なに?」
「アンタ、自分が痛そうな顔するから。そういう顔にさせたくない。俺、アンタの笑ってる顔の方が好きだから。」
「そんなの、理由になってない!」


思わず声を荒げてしまった。


「……どうせ見えなくなるなら、最初からいらないって思ってた。何も好きにならない、誰も好きにならない。だって辛いのは目に見えてる。だから何を見ても心を動かされることもなくて、定期検診の度に視力が落ちていても、怖いことなんてなくて。」
「………………。」
「……今日久々の定期検診で、やっぱり症状は悪化してた。ーー嫌だったんだ、見えなくなることが。」
「………………。」



日椎は慈しむような眼差しを向けた。



「アンタのコロコロ変わる表情とか、アンタが綺麗だって感じるものとか、夕日を見たときの楽しそうな顔とか、全部見えなくなるのが、ーー怖かった。怖いって思ってしまった。」
「日椎………」
「だから離れたい。これ以上は辛い。だって、俺はアンタの傍にはいられない。」



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