特進科女子と普通科男子
「った!……んあ、夢?」
目の前には、同じ普通科の制服を着崩した男ーー親友の美鈴。
どうやら俺を乱暴に夢から覚ましたのは、美鈴らしい。
その声が、夢の中のあの子と一致して、俺は安堵と落胆を込めて溜息を吐いた。
( 夢で良かったけど。そもそも、あの子の声はもっと高めで、ふわふわと柔らかくて…… )
「寝ぼけてんじゃねー。話があるって言ったのはお前だろ」
そう言われて、先程の屋上で「話がある」と言った自分を思い出す。
「あ、」
「早く話せよ」
美鈴は溜息を吐いて、どかっと前の席に座ると、だるそうに頬杖をつく。
そして俺が起き上がるのを待たず、焼きそばパンの袋をびりっと開けた。
「実はさ、さっき目が合ったんだよね」
「ほう。それで?」
「え、それだけ」
「……」
睨みつける美鈴に、にっこりと微笑みを返して、俺は窓の外に目を向けた。
中庭を挟んで向こう側の特進科の校舎は、普通科の校舎とは比べ物にならないくらい真っ白。
向こうは新設されたから、白くて当たり前だけど。
さらに、誰も校舎を壊したり汚したりしないから、余計白いまま。
それを見る度に、住んでる世界が違うんだと実感させられる。
「……話せたんだろ?」
「そうなんだよね。本当、可愛かった」
真面目な顔で答えると、美鈴は大人びた表情で「へぇ」と言って微笑んだ。