特進科女子と普通科男子
5
「駄目っ、宮ちゃん!」
「……ぁ、由李ーー!?」
気付けば、体が勝手に動き出していた。
襲い掛かるであろう痛みを堪えるように、強く強く目を瞑り、その瞬間を待った。
「ーーうっ……」
( ……あ、れ? )
待てども痛みは全くこなくて、代わりに誰かの呻く声が聞こえた。
「もう、大丈夫だよ」
低く響くような声が聞こえて、「まさか」と思いながら目を開けた。
「さ、相良君……?」
そう呼ぶと、彼が驚いたように目を丸くして、それからにこっと微笑んだ。
あの日よりもさらに近い距離に気が付くと、不謹慎にも、ぶわっと頬に熱がたまる。
「な、何で、相良……」
女の子達の声は悲鳴じみている。
私同様、相良君の登場に驚いているんだろう。
「お前ら、何してんの?」
いつもより数段低い相良君の声が、少し怖い。
「べ、別に……行こ!」
相良君に腕を掴まれていた女の子は、悔しそうに彼の腕を振り払って、ぱたぱたと逃げてしまった。
……あの調子だと、宮ちゃんに殴られてはいないみたい。
ほっと息を吐いて、胸をなで下ろす。
「おい、要」
相良君とは別の男の子の声がして、私はぴしっと身体を強ばらせた。
そして、はっと我に返る。
( ーー宮ちゃん! )
相良君の身体から顔をずらして、彼女の姿を捉える。
男の子にもたれ掛かるようにして、くたっと意識を失っている彼女に、ぐっと唇を噛み締めた。
「宮ちゃん……!」
傍に駆け寄って彼女の手を握り締める。反応を返さない彼女に、不安でいっぱいになる。
「おい、あんたーー」
「ひっ……!」
宮ちゃんを抱き留めた男の子が、眉を顰めてこちらを睨んでいる。
そうだ、男の子が居たんだ。
そう認識すると、条件反射のようにがたがたと震えだす身体。それを、ぎゅうっときつく抱き締める。
ぞわりと悪寒がして、鳥肌まで立ってきた。
( ……あぁ、駄目だ。宮ちゃんが大変なのに。それどころじゃないのに )
そう分かっていても震えは治まらない。
睨んでいるように見えた男の子も、様子のおかしい私に気付いて「おい、大丈夫か?」と手を伸ばす。
びくっと大袈裟に驚いてしまって、男の子はぱっと手を引っ込める。
「美鈴、その子を保健室に」
後ろから、相良君が男の子に声を掛ける。
男の子は「あぁ」と頷くと、軽々と彼女を抱き上げ、すたすたと校舎に入って行ってしまった。
それを見届けると、相良君は震える私の真正面にしゃがんだ。
「もう、大丈夫」
「……」
「一緒に、保健室に行こうか」
相良君はそう言って、無理に私を急かそうとせず、震えながらぎこちなく歩く私に合わせて、ゆっくりと歩いてくれた。