特進科女子と普通科男子
「お前ら……殺すよ?」
抱き締められながら、初めて聞いた彼の声。
地に響くような、低く恐ろしい声。
今の相良君は、あの日の宮ちゃんと重なってみえた。
……絶対に、彼を行かせてはいけない。
何故か強く、そう思った。
「駄目……行かないでっ……!」
やだやだ、と駄々を捏ねるみたいに、相良君の胸に顔を埋める。
「行かないで……」
怖い。怖い。
乱暴なことも。意地悪なことも。全部、苦手だ。
でも……
( ……皆が傷付く方が、もっと怖いから )
私の身体を離そうとする相良君に無理矢理しがみつく。絶対に離れない。絶対に行かせない。
「由李ちゃん」
彼の声がさっきよりも穏やかになったのが分かっても、彼から離れられなかった。
私は、逃げてばっかりだ。誰かに頼ってばっかりだ。
男の子が怖くて仕方なかった。でもきっと、宮ちゃんだって怖かったはずだ。
彼女はいつも私を守ってくれるのに、私はいつも彼女を助けられない。
「由李ちゃん、もう大丈夫。怖がらせてごめん」
震え続ける私を宥めるように、相良君が優しく背中を撫でてくれる。
私は縋るように、彼のシャツを掴む手に力を込めた。
「由李ちゃん?……由李ちゃん!」
焦るような相良君の声に、返事しなきゃと思うのに、黒いもやが周りの音をかき消していく。
ーーごめんなさい。
何も出来なくて、ごめんなさい。
( 違うよ、相良君…… )
ーー謝るのは、私の方だ。
「わ、私の、せい……」
「由李ちゃん、しっかりしろ!」
「……ごめ、なさ…………」
「由李ちゃん!」
「由李!」
戸惑う相良君と、宮ちゃんの声を聞きながら、私の意識は崩れ落ちた。