特進科女子と普通科男子
「由李ー、おはよう!」
「おはよう、宮ちゃん」
教室で迎えてくれるのは、親友の宮ちゃん。
彼女のポニーテールにした長い黒髪を結うのは、真っ青な細いリボン。
赤やオレンジが似合う彼女の雰囲気と相反するそのリボンは、彼女の宝物らしい。
幼い頃から肌身離さず付けているので、既に少しよれている。
それでも、彼女はその青いリボンを今でも愛おしそうに見つめるのだ。
「今朝は普通科に絡まれなかった?由李は可愛いから、私心配だよ」
彼女のポニーテールが、こてんと首を傾げた時にさらりと揺れる。
彼女は腰に手を当てて、私の顔を覗き込んだ。
少し猫目の彼女の上目遣いは、とっても可愛い。
私はへらりと笑って、今朝の出来事を思い出した。
「うん。普通科の男の子が通してくれなかったんだけどね、」
ーー相良君っていう男の子が、助けてくれたんだよ。
そう言い終えると、彼女は猫目を丸くして、あわあわと私の手を上下に振った。
「普通科の人でしょ?後で恩着せがましく言ってくるんじゃない」
彼女は普通科が苦手だ。
彼女だけでなく、特進科は普通科が嫌い。
普通科は特進科が嫌い。
廊下ですれ違えば喧嘩が始まる。
視界に入るだけでも舌打ち。それが耳に届けば、やはり喧嘩。
普通科は良く言えば自由奔放。悪く言えば不良。
制服は規則通りには着ないし、授業もさぼる。
校舎の窓を割る、なんてことも日常茶飯事である。