◆あなたに一粒チョコレート◆
「イイ匂い。オレンジ?」

「ん?ああ、ボディソープか?知らねーけど、ミカンみたいな絵が描いてあった」

シャツを着終わった瑛太が、何でもないと言ったようにそう言ったから、私は更に質問した。

「朝、瑛太から凄く美味しそうな甘い香りがしたけど、あれは何?香水?」

「……」

瑛太が私から視線をそらして唇を引き結んだ。

しばらく答えを待ったけど瑛太はなにも言わなくて、部屋いっぱいに訳の判らない沈黙が広がる。

「瑛太?」

「……いや。じゃあ行くか」

「うん」

瑛太は私の質問をあからさまに避けた。

なに、この感じ。

言いたくないの?なんか凄く……違和感。

先に部屋を出て階段を降り始めた瑛太の背中を、私は不思議な気持ちで見つめた。
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