◆あなたに一粒チョコレート◆
わっ、藤井の奴っ!

「違うわっ!」

バカみたいに囃し立てる男子と、様子をうかがう女子達の眼差し。

冗談じゃない。

「ほーお。なんかおもしろーい」

菜穂までっ!

私が眼を細めて菜穂を睨むと、彼女は学食のトレーを両手で掴んでニヤリと笑った。

「とにかくさ、あんたは浅田に探りを入れな。バニラの匂いの主を突き止めるのよ」

「わ……分かった」

私はしっかりと頷くと、菜穂の後に続くように返却口へと食器を運んだ。

これ以上瑛太を見ないようにしながら。

****

『瑛太。部活終わった後、瑛太が暇なら部屋行っていい?ゲームの続き、やりたい』

嘘だけど。

ゲームは今、行き詰まってて面白くない。

ただ、バニラの香りの主を探りたいだけ。

暫くするとラインの返信がきた。

《いいけど》

『瑛太の部屋で待ってるね』

《オッケイ》

ふっ、アホめ。警戒心の欠片もない奴だ。
< 19 / 87 >

この作品をシェア

pagetop