◆あなたに一粒チョコレート◆
さっきの私の言葉に、菜穂がゾッとしたように眉を寄せる。

「髪がこのアッシュブラウンじゃなくなったら私じゃないわ。三折りの靴下?!昭和でも無理」

「じゃあここから入るしかないっしょ!おりゃっ!」

私は道路の端から助走をつけると思いきり塀によじ登った。

壁の向こうは丁度野球のバックネットで死角。

職員室は本校舎だから、先生たちに見つかりにくいしね。

運悪く、何度か野球部の顧問に見つかったけど、今日は確か出張のはず。

私は塀の一番上に腰かけると、下を確認しながら学校内に飛び降りた。

よし、朝練が終ったのか野球部は誰もいない。

予鈴は鳴り終わったけど本鈴はまだだ。

「菜穂、早く」

「分かった。っよっ!……痛っ!」

塀の高さは多分二メートルくらい。

何とかよじ登り、着地した菜穂は僅かに顔を歪めたけど、どうやら無事みたいだ。

「さあ、行こ!社会始まる」

「うん」
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