◆あなたに一粒チョコレート◆
瑛太が、キス。

脳裏に瑛太が誰かにキスをしている画が浮かび上がり、反射的に私は眉を寄せた。

「キモい!もう瑛太の話題飽きたわ!どーでもいー!」

「……はいはい」

呆れたのか薄ら笑いを浮かべた菜穂の顔を、私はこれ以上見れなかった。

****

相変わらず瑛太は私の右隣の席だけど、私は瑛太を見なかった。

同じ教室だけど、視線も絶対合わせない。

瑛太がいそうなところは、見ない。

ただ、匂いだけは漂ってくる。

瑛太本人の匂いと、甘いバニラの香り。

バニラの香りは好きなのに、瑛太から香るそれは好きじゃない。

無性にイラつく。

「おーい、川瀬ー。川瀬春いるかー?」

担任だ。何だろう。

「はーい、なにー?」

黒板側の入り口から教室を覗き込む担任に返事をすると、担任は無情な一言を言い放った。

「学年主任の池田先生が呼んでるぞ」

げっ!なんで私だけ?!

思わず菜穂を見ると、彼女は訳がわからないらしく首をかしげた。

ああ、面倒が起こる予感がする。

だってズキズキとこめかみが痛むもの。
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