◆あなたに一粒チョコレート◆
ぶっきらぼうな私の口調に嫌な予感がしたのか、瑛太が摺り足で私から離れた。

なによそのいちいち勘に障る動き方。

お前は狂言師もしくは歌舞伎役者かっ!

「あっそ。じゃあね」

「……おう。それと土曜日は練習試合だから、八時に部室集合な。金曜の放課後、買い出し行くから」

土曜日?……土曜日は無理だ。鮎川君にサッカーの試合見に行く約束したし。

「あー、土曜はパス。先約があるから」

すると私に背を向けようとしていた瑛太の動きが止まった。

「は?練習試合だっていってるだろ。無理とかないから」

「無理だってば。先に約束しちゃってるもん」

「断れ」

瑛太がムッとした瞳で私を見据えた。

その顔が、凄く真剣で怖かった。

なによ……そんなに怒ること?

「じゃあ……買い出しの荷物は運ぶよ。で、試合が終わる頃にもっかい顔出……」

言い終える前に、ベッドが軋んで身体が揺れた。

だって瑛太がベッドに膝をついて、私の方に身を乗り出したから。
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