◆あなたに一粒チョコレート◆
「そんなに鮎川の試合が見たいの」

「っ……!」

一瞬で鼓動が跳ねた。

なんで知ってるの?

確かに学食で話しかけられたとき瑛太もいたけど、会話なんか聞こえるような距離じゃなかった。

後で誰かに聞いたとか?

だったら、最初から知ってたのに、野球部の試合を優先しろって?

瑛太が、至近距離から私を見据える。

「春……アイツが好きなの?」

「はあっ?!」

「は?じゃねーよ。鮎川が好きなのかって聞いてんだけど」

瑛太の声は決して大きくなかった。

でも、低くて冷たい。

端正な顔を傾けて、瑛太は僅かに眼を細めた。

それから、なにも言えないでいる私に続けた。

「なに?コクられて舞い上がってるとか?」

信じられなかった。

ガキ大将だったけど、瑛太はいつだって私には優しかったのに。

こんな風に怒ったり、意地悪なんて私には絶対に言わなかったのに。
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