◆あなたに一粒チョコレート◆
……しょうがない。イヤホン使って音楽聞いてるコがいたりするから、一応見とかないと。

そう思いながら私は、ヒョイッとロッカーの向こうを覗いた。

「うわっ!」

驚きのあまり、思わず身体が硬直する。

……瑛太が着替えていて、ロッカーからカッターシャツを取り出すところだったんだ。

「……春」

嫌だ。昨日の今日だし……気まずい。

朝練の時も、瑛太が柔軟体操やスクワットをしているところに私は近寄らなかった。

それどころか、目に写らないようにしていた。

そ、それなのに、こんなところで二人きりはないでしょ!

私は素早く身を翻すと早口で言った。

「外で待ってるから着替えたらすぐに出てきて」

「春、待てって」

タン!と瑛太の足音が響いた瞬間、腕を荒々しく引っ張られた。

「きゃあ」

避けることもできないまま、私の背中が瑛太の身体にぶつかる。

その瞬間、瑛太が素早く私を腕の中に囲った。
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