◆あなたに一粒チョコレート◆
「な、に?やだ」

「春はさ、なに考えてんの」

私の身体に、瑛太の太い腕が絡まる。

咄嗟にその腕を掴んで解こうとしたけれど、筋肉の張った瑛太の腕はビクともしない。

次第に鼓動が跳ね上がり、自分と瑛太の体温が混ざって背中が熱い。

「俺の事、何だと思ってんの」

掠れた瑛太の声が妙に生々しくて、私は焦って言葉を返した。

「何って……別に。瑛太は瑛太で昔から変わらないよ」

私がそう言った直後、瑛太が腕を解いて私の二の腕を掴むと、自分の正面に向き直らせた。

身を屈めて私と目線を合わせ、こっちを覗き込む瑛太は、私の表情から何かを探そうとしているみたいだった。 

「んなわけないだろ」

「とにかく離してよ」

瑛太の瞳に苛立ちの光が浮かび上がる。

その眼を、見ていられない。

「眼、そらすな」

「……っ!」

瑛太が私をトンと突いた。

コツンと後頭部がロッカーにあたる。

「なによ」

「こっち見ろよ、春」

壁ドンなんて距離じゃなかった。
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