◆あなたに一粒チョコレート◆
瑛太が精悍な頬を傾けて、続けた。

「もうガキじゃねぇよ」

「瑛太っ」

「こんな俺を……春は嫌なのかよ」

……こんな、瑛太を。

私は……私は……。

その時、浪川の声が響いた。

「おーい、まだいるのかー?ドアに鍵ささったままだけどー」

た、助かったっ。

普段どうでもいい浪川が神様に思えた。

「いる!いるよ!待って!」

私は大きく浪川に返事をしながら至近距離の瑛太を睨んだ。

「どけっ!瑛太の変態っ!」

「いって!」

油断をした瑛太に膝蹴りを食らわせて、怯んだ彼の横をすり抜けると私は入り口にいた浪川に声をかけた。

「まだ中に変態の瑛太がいるけど、もう鍵かけて閉じ込めてもいいわよ!」

「へっ?」

今度こそもう知らない!瑛太なんて知らない!

私は息も荒く階段をかけ上がると部活棟から飛び出し、本校舎の屋上を目指した。
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