◆あなたに一粒チョコレート◆
「それからなあ、バレてるぞ?!塀よじ登って入るんじゃねぇよ!」

「はーい」

すると先生は出席簿から眼を上げて教室を見回し、首をかしげた。

「浅田は?おい浪川。お前も野球部だろ。アイツはまだ朝練か?」

浪川龍士が焦ったように私の隣の瑛太の席を振り返った。

「あー、えっと」

その時、

「遅れてすみません。着替えてました」

凛とした瑛太の声で、男子よりも早く、クラスの女子全員が教室の出入り口に眼をやる。

「おー、10分以内だから負けといてやる。早く席につけ」

「はい」

スクバを肩から下ろしながら私の隣に近付く瑛太を見ると、彼はチラリとこちらに視線を投げた。

「遅」

「部室に寄ってたんだ。着替えなきゃ汗臭い」

その時、カタンと小さな音を立てて席についた瑛太から、風にのって僅かに甘い香りがした。

……なに……?

反射的に眉を寄せ、瑛太の方向の空気を小さく嗅ぐ。
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