◆あなたに一粒チョコレート◆
汗の臭いなんて全然しないけど、その代わり甘い香りがする。

瑛太から。

この甘い香りは……たとえるなら……バニラみたいだ。

「なに」

私を斜めに見た瑛太の瞳からは何も読み取れなくて、私は小さく別にと呟くと教科書に視線を落とした。

***

「ねえ、見て見て!」

昼休みに菜穂が、ウキウキしたようすでスマホの画面を私に向けた。

「んー?」

「これ、すっごい良くない?」

「なに?ピアス?」

画面いっぱいに写っているピアスは、凄くキラキラと輝いていて大きかった。

「これって、ダイヤ?高そうだけど」

私が驚きながらそう言うと、菜穂は首を横に振って笑った。

「ダイヤじゃなくてクリスタル。ほら、歌手のMAYAがCMしてるやつ」

菜穂は、アーティストのMAYAの大ファンだ。

MAYAのしているアクセは常にチェックしているし、服だって何着かは同じのを持っている。

「これね、そんなに高くないの。一万円くらい。だからね、バレンタインのチョコのお返しに、彼氏にねだろうかと思ってるんだ」
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