◆あなたに一粒チョコレート◆
「私がこんな近距離に来たのが悪いの。迷惑かけてごめんね」

「もう三木さんに連絡してあるからね。すぐに迎えが来るから、それまでに傷口の砂を洗っとこう!」

マネージャーが私に優しくそう言った時、誰かが驚いた口調で言った。

「嘘だろ、早!もう野球部が来たぜ」

……え?

「あれは……浅田じゃないか?野球部一年の浅田瑛太」

そう言った部員の視線を追うと、階段の向こうに本当に瑛太の姿が見えた。

瑛太はコートの端にしゃがみこむ私を眼で捉え、階段を一気に駆け降り、みるみる私に近寄ると唇を引き結んだ。

……どうしよう、めちゃくちゃ怒ってるっぽい……。

「さあ、試合の準備だ。あとは浅田に任せろ」

「先生、うちのマネージャーがご迷惑かけてすみませんでした」

瑛太が言いながら頭を下げると、サッカー部の顧問は軽く手をあげてベンチへと踵を返した。

顧問の一声で部員達が散り、後には瑛太と私、鮎川君だけが残ると、私は恐る恐る瑛太に声を掛けた。

「あの、瑛太……」

「春。手当てした後、話あるから」
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