◆あなたに一粒チョコレート◆
出入り口付近にいた男子が机に突っ伏していた瑛太を呼んで、菜穂の言葉が途切れた。

「あー、サンキュー」

ムクッと身を起こした瑛太が髪をガシガシとかき上げながら席を立ち、私達に背を向けた。

「あ。なんか……分かった……」

わざとらしく菜穂が眼を細め、瑛太の後ろ姿を見つめるから、私は首をかしげた。

「分かったって、なに」

「春が恋しない理由」

「は?」

眉を寄せる私をチラリと見て、菜穂は廊下へと消えていく瑛太に再び視線を移して呟くように言った。

「春が恋できないのはさ、瑛太……浅田瑛太が身近すぎるせいなんじゃない?」

「瑛太?なにそれ」

私がますます眉間にシワを寄せると、菜穂は呆れたように溜め息をついた。

「浅田瑛太の人気を知らんのか、あんたは!」

瑛太の、人気?

「一年生ながらにあの恵まれた体格で、運動神経抜群じゃん?野球部ではエースで四番!さぞかし先輩達の反感買ってると思いきや気取ったり天狗になったりせず人一倍裏方の仕事もやるものだから可愛がられてるしね」

私はビックリして菜穂を見つめた。
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