◆あなたに一粒チョコレート◆
ああ、バカだ!私はバカだ!!

今まで瑛太と過ごした日々が私の胸に蘇った。


『瑛太、バッティングセンター連れていって。打ち方教えて』

『いいけど、怪我するなよ』

『瑛太、ホラー映画が観たい。一緒に借りに行こうよ』

『……俺、苦手なんだけど』

『瑛太、真夜中に流星群が見れるんだって!私、見たい!起こして』

『しょうがないなー。俺も自信ないからな』


胸の痛みが限界で、息をするのも苦しい。

この場にいるのも。

谷口さんに気をとられた瑛太の隙をついて、私は彼の手を振り払うと一気に階段を駆け降りた。

苦しくて胸が痛くて、本当に死にそうだ。

涙が後から後から溢れ出てきて止まらない。

「川瀬……?」

正面玄関の壁掛け時計の脇から、鮎川君が身を起こして驚いたように私を見た。

「鮎川君……ごめん、私……」

泣き濡れた私の顔を、鮎川君はただ見つめた。
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