◆あなたに一粒チョコレート◆
それからゆっくりと私に歩み寄ると、静かな声で言った。

「川瀬。ちゃんと頑張れ。ちゃんと後悔しないように」

「鮎川君……」

鮎川君は私にティッシュペーパーを手渡しながら、少し寂しそうに笑った。

「川瀬が元気じゃなきゃ、俺も元気なくなるわ」

「ごめん、鮎川君……」

俯く私の頭を、鮎川君がポンポンと優しく叩いた。

「ほら、今日はバレンタインデーだろ?!頑張る日だろ?!」

バレンタインデー。

頑張る日。

鮎川君が、優しい眼差しで私を見つめた。

「……うん……!」

私は涙を拭うと鮎川君に頭を下げて学校を飛び出した。
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