◆あなたに一粒チョコレート◆
だって、チョコが出来てないもの。

なのに、とうとうここにきて着信を知らせるメロディーが鳴り始めた。

画面を見てギョッとする。……やっぱり瑛太だ。

LINEに既読がつかないのを見て、電話をしてきたのかもしれない。

どうしよう……まだ生チョコが完成してない。

それに、ちゃんと自分の気持ちを伝えたいのに、先に瑛太の口から谷口さんとの交際宣言が飛び出したら、きっと私はショックで死んでしまう。

だってそうでしょ?

完成してないチョコも、伝えられなかった想いも、辛すぎて無理。

でも瑛太はなかなか諦めてくれなくて、着信音は鳴りやまない。

ああ、もう!

……もし話がしたいとか言われたら、頭が痛いって断ろう。

観念して電話に出ると、当たり前だけど瑛太の声がした。

「春」

「……うん」

「……」

「……」

重苦しい沈黙。苦しくてズキズキと痛む胸。

その沈黙を、瑛太が先に破った。

「何で避けるの」

「……避けてない。頭が痛くて」

「嘘つけ。玄関先でおばさんに会った」

「そ、うなんだ……あの、ママはパパとデートで」

「知ってる。春に会いたいって言ったら、『もう少し待ってやって』って言われたし」

「……それは……その……」
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