◆あなたに一粒チョコレート◆
知らないって幸せよね。

みんなは知らないのよ、瑛太の保育園時代も幼稚園時代も、小学生時代もね。

そりゃあもう、ガキ大将のクセにすぐ泣くわ、夜は怖がってひとりで眠れないわ、やっと寝たと思ったらオネショの量はハンパないわで、ジャイアンのが断然マシだったんだから。

「ふ、ふふ……ふふ……」

「春、怖い」

私は何とか笑いを噛み殺しながら、大きく息をついて菜穂に告げた。

「とにかくね、瑛太は関係ない。私にしたら瑛太はただの幼馴染みだもん」

「でも今は、あ」

「あれ、瑛太。どしたの?」

昼休みの教室は騒がしいし話に夢中になっていたせいで、私達の横まで帰ってきていた瑛太に気付かなかった。

そんな私を瑛太は静かに見下ろしていたけど、やがてポツリと口を開いた。

「春。買い出し付き合って。マネージャーがインフルエンザなんだって」

「あ、うん。分かった」

私は瑛太からプリントを受け取るとそれに眼を通して再び顔を上げた。

「じゃあ帰ったら瑛太の部屋……あれ?」

「もういないわよ」

「早」

菜穂が後ろを振り返りながら腕を組んだ。

「浅田が今ムッとしてたの、気のせい?」

「朝練きつくて疲れてんじゃない?」

私はプリントを半分に折り畳むと机に突っ込んで、食べ終わったお弁当を片付けた。
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