スターチス


「ここは...?」

着いた先は海が見渡せる山の頂上にある別荘。
風が強くてすごく寒いけど、どうやらここも祐介所有の隠し別荘らしい。
何個持ってるのよ、と金持ちの感覚がわからないまま返事すらしない祐介の後ろを付いて中へ入った。

「暖かい」

一見普通の家に見えるけど、中は木で作られていて、今では珍しい暖炉まである。

鍵を開けたのは祐介で無人の別荘に誰かがいたような気配はないのに火がついていて部屋が暖かくなってる。
現代科学ってこんなのことまで出来るの?!と思っていると「管理人がいるんだ」とあたしの心を読んだように答えた。

「そう、そうだよね」

独りでに点いたのかと考えるほうがどうかしてるよね、と思っていると「コートはここに掛けとけ」と壁にかかっているハンガーを指差した。
コートを脱いでそれに掛けると鞄に入っていた大判ストールを取り出し、ソファに座ってひざ掛けにした。

「白でいいか?」
「うん」

そう尋ねると部屋から出ていき、数分後にはワインを持ってきた。
キッチンにグラスを取りに行き、それをテーブルに置くと今度はあたしがそれに手を伸ばし準備を始める。

「こんな所にもあったんだね」
「まぁな」
「あといくつあるの?」
「もう無い」
「嘘ばっかり。他の県とかにあるんじゃないの?」
「どうだろな」
「あったとしても浮気はしないでね」

ワインをグラスに注ぎながら、くすくす笑いながら冗談を言ってみる。
本当に他府県に別荘でもあって、そこを浮気に使われたら笑い事じゃなくなるけど。

自分のグラスにもワインを注いでコルクを戻し、祐介にグラスを渡そうと見上げると無表情な視線を向けていた。

「どうしたの?」

尋ねてみても返事は無い。
グラスをさらに持ち上げ差し出すと手を伸ばしてくれた。
受け取るとそれを一度テーブルに置き、その手であたしの手を取った。

どうしたんだろうと首を傾げると祐介は大きく溜息を吐いた。

「浮気をしたいのはお前の方じゃないのか」

祐介の突然の言葉にあたしの思考は止めざるを得ない。

「何を言ってるの?」
「さぁ...何を言ってるんだろうな」

苦笑する祐介はあたしから手を離し、その手でグラスを持ち上げ、視線であたしもグラスを持つよう促すけど、それには応えられなかった。

祐介の言葉が脳内で反芻して止まない。
祐介の手からグラスを取り上げ、今度はあたしが祐介の手を取った。

「どういう意味?」
「なにが」
「今の言葉よ。どうしてそんな言葉が出てくるの?」
「それはお前がよく知ってるだろ」
「わからないから聞いてるの」

祐介の手をぎゅっと握り、話を逸らせないよう強く力を込める。
祐介はそれを返してはくれないけど、それだけで心が離れてあるように感じた。

今の祐介はいつも以上にわからない。
あたしを見ていた視線は逸らされ、それを戻すよう掴んでいる手に力を込める。

視線が戻ると力を緩め、再度逸らされるとまた力を込める。
それを何度か繰り返して気付いた。

“あたしは信用されていないんだ”と。
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