スターチス
今日は何の日だっけ。
街はクリスマスカラー一色。
恋人達は手を繋いで聖なる夜を過ごすのにあたし達は浮気云々の話をしてる。
結婚して、ようやく地に足が着いたと思っていたけど、まだ浮遊していたらしい。
これもやっぱりあたしのせいなんだろうか、それとも、元々あたし達は一緒にいるべき存在じゃなかったのか―――そんな不安が押し寄せてくる。
あたしは出会った頃から祐介が好きで、やっとの思いで手に入れて、一緒になるまでも相当な時間を費やした。
全ては祐介を手に入れるためで、一緒に生きていきたくて、この気持ちが人を愛する気持ちなんだって教えてくれて、どんなに子供扱いをされても、どんなに見劣りしても祐介のために綺麗になろうと努力をしてきたし、結婚した時は夢が叶ったみたいでそれだけで幸せだった。
「あたしは、どうすればいい…?」
掴んでいた手を離し、膝の上に置いた。
視界が潤みそうになるのも必死で堪えた。
祐介がそう言った理由はきっとあたしにあって、祐介には無い。
いつだってあたしは祐介の浮気を心配したし、結婚してからも帰りが遅くて女性の匂いがしたら口にはしないけど不安になった。
それも全て我慢してきたし、どんなに忙しくても家に帰ってきてくれる祐介を嬉しく思ったし、それだけで幸せだった。
そんな祐介にあたしの浮気を疑われるなんて思いもしなかったし、こんな日に聞かれるなんて思わなかった。
「世津」
「あたしは、祐介が好きで、だけど仕事のことも、考えてることも、理解したくても出来ないし、だから好きでいることだけしか出来なくて、結婚したから少し安心できたと思ってたけど、まだ不安は消えなくて、でも……」
でも、好きだから信じるしかなくて、ずっと好きな気持ちを募らせてきたのに、それすらも疑われてしまうならあたしは一体どうすればいいんだろう。
それしか出来ないあたしの唯一を疑われてしまったらあたしの存在価値など無くなったのと同じ。
「祐介にそう思わせた原因があたしにあるのはわかってる。
今日もちょっとした意地悪で木藤さんと仲良くしたりウェイターの子と話したりしたけど、それは祐介に少しでも嫉妬して欲しくてやったこと。
あたしはまだ子供だからそんなことでしか気持ちを確かめられない。
あたし達は結婚してるけど、涼みたいに子供がいるわけじゃないし、二人だからそれを繋ぎとめるモノは互いの気持ちしかない。
口にして欲しいって言ってるわけじゃないけど、確認しないと不安になるの。
信用してるけど不安が消えたわけじゃないし、でも、」
自分で話していながら何が言いたいのかわからなくなる。
自分の不安を口にしてはそれをフォローする言葉も口にして否定したり、余計なことまで口にしてはそれに気付いて訂正しては墓穴を掘っている。
そんなことを繰り返して、途中で言えなくなったのはあたしの手を祐介が掴んだから。
ぎゅっと握り締めていた手に祐介が触れて、あたしの言葉を止めたから。
「不安って、何が不安?」
祐介は尋ねる。
「なにが、って…」
「今言っただろ、不安だって」
「言った、けど」
「俺が何も言わないから不安?仕事のことも、俺の気持ちも、全部?」
真剣な瞳の祐介に今度はあたしが視線を逸らすことになった。
それでも祐介はあたしのように視線を戻すことを強要することなく、あたしの好きなようにさせる。
それがまたあたしの心を締め付ける。
あたしがどんなに不安になったって祐介はあたしを自由に泳がせて縛ってはくれない。
あたしが不安になるのはそういう所で、自由にさせてくれる反面、何の縛りも無いことが不安になる。
祐介に“束縛”という文字や行動は存在しない。
木藤さんは祐介もナリくんと一緒だって言ってくれたけど、あたしにはただ不機嫌なだけにしか見えなかった。
そうであればいいと思ったけど、それもまた夢の話だってわかってる。