スターチス
「あたしは自由だから...あたしは自由だから何をしたって何も言われないし、喧嘩した時も涼の家に泊まっても連絡も心配もしなかったし、きっと他の男の人と食事したって何も言わないだろうし。
だから、あたしはそのくらいの存在でしかないんだって思ってる。でも、……えっ?!ちょ、っと!?」
黙って聞いていた祐介が急に立ち上がって、あたしの腕を掴んで立たせると、急に動いたことで覚束ない足取りのあたしを気遣うこともなく、あるドアを開けると真っ暗な部屋に連れ込まれ、中央まで歩くと突然腕を離され、ベッドらしきところに倒れこんだ。
「な、に?」
突然のことに付いていけなくて、視界はなれない目で真っ暗だし、祐介の表情もわからない。
ただわかるのは祐介もベッドらしきところに上がってっきて、あたしの真上にいるということ。
「ちょっと、祐介、なにを…」
「自由にしてることが不安ならずっと閉じ込めておく」
「へ?!」
「俺はお前が思うより大人じゃない」
「そんなの...」
「俺が心配も嫉妬もしないとでも思ってたか?」
「だって実際、」
「それは行き先が涼の家だってわかってたからだ。アイツらだって生活があるんだ、長居は出来ない。帰ってくるのがわかってるから連絡しなかった」
「他の家に、涼の家じゃない所に行ってたらどうするの」
「その時は絶対探し出して家から出られないようにしてやったよ」
サラリと言い切った祐介に一瞬怯んだ。
でも、絶対そんなことしないと思い直した。
そんなこと祐介がするはずないって、充分すぎるくらいわかってる。
「お前は本当の俺を知らない。アイツはそれをわかって面白がってた」
「アイツって、…木藤さん?」
「今度そんな優しくアイツの名前を呼んだら二度と連れて行かない」
祐介の指があたしの下唇をなぞり、それに反応して身体がびくりとした。
急な接触に驚いた。
暗闇に慣れた目で祐介の顔を見ると何の感情も持っていないような無表情で自分の指を追いかけている。
口唇の先まで撫でると、そのままあたしの顎を掴んだ。
「俺もナリと何ら変わりない。そうやって無意識に口唇を開いているお前を他の男に見られるなんて想像しただけで苛立つよ」
祐介の言葉に自分が口唇を開いていることを知って慌てて閉じると、それと同時に祐介の口唇が重なった。
ちゅ、と小さく音を立てて離れると、今度は下唇を舌でなぞり、それが終わると上唇をなぞる。
しかし、それが終わってからは何もしてくれない。
いつだってそうだ。
空気を作っておきながらするのはキスだけで、スタートを切るのはあたし。
いつだってするかしないかの決定権はあたしにある。
例えそれがこんな状況であっても、だ。