スターチス
じっとあたしを見つめ続ける祐介の右頬に触れて、耳元から首筋を撫でる。
そして再び右頬に戻す。
「木藤さんに嫉妬した?」
「ウェイターの子にも嫉妬した?」
「あたしが家出したとき心配した?」
「あたしがいなくて寂しく感じた?」
祐介が答える隙を与えず何個も質問をする。
もちろん、その間も祐介はずっとあたしを見ていたし答えるつもりがないのか口を開くこともなかった。
それをいいことに続けた。
「あたしのこと、本当に愛してる?」
付き合っていた時も聞けなかった。
結婚式の時も聞けなかった。
ベッドの中でも聞けなかった。
どんなにねだっても言葉はくれない。
それが募って不安になっていたのかもしれない。
愛される度に大きく開いた穴が少し埋まった気がした。
腕の中で眠る度、キスをしてくれる度、名前を呼んでくれる度に少しずつ埋まっていくような気がした。
でも多きく広がった穴は完全に埋まることはなかった。
「あたしと一緒になって、本当によかった?」
そして、返事を待った。
視界が滲んで少しでも瞼を動かすとこぼれるんじゃないかってくらい涙が溜まっていたけど、息を止めてまで堪えた。
そのほうが祐介の表情が見えなかったし、もし欲しい答えが返ってこなくても見えないことで少し和らぐんじゃないかって思ってたのもある。
「お前はどうなんだ」
今度は祐介があたしに問う。
…そんなの、答えは決まってるのに。
「あたしは祐介がいないと生きていけないのに、今更そんなこと聞くの…?」
答え終えるのと同時に頭を少し上げ、祐介の首に腕を回して触れるだけのキスをした。
目を閉じた時に涙がこぼれたのがわかったけど、拭うことはしなかった。
だって、祐介があたしの頬に触れて、拭ってくれたから。
「祐介は…?」
少し考えた祐介は小さく頬にキスを落とし、今度は祐介から深く口付けた。
「子供、欲しいか」
息を整えるあたしに冷静な祐介が問う。
そりゃあ年齢もきてるし、同じ歳の涼には3歳になる子供がいる。
祐介が子供はいらないって言うなら、それでもいいと思っていたけど、幸せそうな涼を見ていたら“子供が欲しい”と思わなかったわけじゃない。
子供を産めるのは女の特権で愛する男との子供なら尚更。
でも、さっきのあたしの言葉を聞いて祐介がそう言うのはまた違う。
言い出したのはあたしだけど縛りがないから子供をつくるというのは違う。
「欲しくない、と言えば嘘になるけど、祐介が欲しくないなら別にいらない」
ようやく息も整い、肘で体を支えて至近距離にある祐介の口唇に口付ける。
祐介は少し考えて、「分かった」と言った。
「何がわかったの?」
「千秋も友達が欲しいだろ」
「ちーくん?あたし達の事じゃなくて?」
理由がありえない、と呟くと祐介は苦笑する。
「いらないと思ってたけど、…見たくなった」
「あたし達の子供?」
「お前が母親の顔をしている姿」
え?と思った時には祐介の動きは再開していて、何も考えられなくなった。
ただ、どんどん進む行為はいつも以上に愛でられ、今までで一番愛されてると感じた。
「ゆ、…すけっ」
「世津」
祐介があたしの名前を呼ぶたびにゾクゾクした。
全身で“愛している”と伝えているみたいで恥ずかしくもなったけど、祐介もそれに答えてくれる。
これ以上にない幸せだ。