スターチス
「結局、“愛してる”って言ってくれなかった」
事が終わって、いつも通り祐介の腕の中にいる。
そして今回も言葉にしてくれなかったことを愚痴っている。
もちろん、祐介に背を向けて。
面と向かって言ってくれるなんて最初から思ってないし期待していなかったからベッドの中でくらいは言ってくれるだろうと期待していたけど、やっぱり言ってくれなかった。
小さく溜息吐きながら「超期待してたのに」と呟くと、「お前、こっち向け」と不機嫌な声で言うもんだから大人しく向かい合った。
もちろん、目は合わしてない。
「お前、今まで俺と何してたんだ?」
「何?!あたしに答えろって?!」
「何恥ずかしがってんだ。世の中にアレ以上恥ずかしいことなんか無いだろ」
「そういう事言ってんじゃないんだけど!?」
急に何言い出すのかと焦ると、いいから早く答えろ、と目で訴えてくる。
「何って...」
「俺に抱かれて何も感じなかったか?」
感じるって何を?!と顔が赤くなるのを見た祐介は意地悪な顔して「今までで一番よがってたもんな」と言った。
それでそっちの意味じゃないことに気付いた。
「変な言い方しないで!」
「勘違いしたのはお前だろ」
キーッ!と言いたくなる意地悪な顔を睨みつけながら祐介のいう“何か”を探した。
今までの情事を思い出しそうになって脳内で消し去ると、ひとつ思い当たることがあった。
祐介の言葉にしてくれない“愛してる”に相当する“何か”を。
「もしかして...?」
「今日は付けてない」
「…本当に?」
「これから少し続けるか」
「うん、……て、えぇ?!」
「なんだ、ヤる気満々じゃねぇの」
あたしの反応に満足したのか面白そうに笑うと、ぎゅっと抱きしめてくれた。
遊ばれてるのがわかるだけに悔しさが抑えきれないけど、祐介の気持ちを強く感じて嬉しさのほうが大きすぎて、抱きしめかえした。
「祐介」
「んぁ?」
眠りかけていたのか、変な返事が返ってくる。
「愛してる」
「知ってる」
「これからも、ずっと。ずっと愛してる」
それだけ伝えて、あたしは祐介の胸元に唇を寄せた。
いつもは嫌がるのに今日は何も言わなかったから躊躇することなく続けた。
「いいの?」
「…悪くないが、痛かった」
紅く色づくキスマーク。
抵抗しなかったのをいいことに少し濃くつけたから痛かったのかもしれない。
でも、それを毎度付けられているあたしの気持ちを分かってくれたに違いない。
「これで浮気できないね」
「お前もな」
「誰にこんな恥ずかしいモノ見せるのよ!」
首元からデコルテ、胸元まで続く大量のキスマーク。
「指輪を付けないお前のためだろ」
「所有印的な?」
「そういうことだな」
どちらかともなくキスをして、互いに笑い合った。
「結果オーライかな」
あたしの言葉に怪訝そうな顔をしたけど、笑って誤魔化しておいた。
END