スターチス
「三沢くん、これお願いしていいですか?」
「はい、紗夜さん」
「三沢くん、何度も言うようだけど、」
「はい、紗夜さん」
それから数日、相変わらず名前で呼ばれることは変わらない。
変わらないどころか、あの日以来さらにひどくなり、返事一つでいいのに名前まで付けるようになった。
毎回注意はしてるものの直す気はないようだし、こうして調子づかせてしまったのは自分だとわかってるから、あまり強くは言えない。
おかげで社内の噂のネタにされるわ、残業後のアイスには必ず付いてくるわ、帰りは食事に誘われるわ、同じ部署の人からはからかわれるわ、で毎日散々。
同期には「年下の男を捕まえるなんてやるじゃん!」なんて羨ましがられるよりもバシバシ肩を叩かれて祝福された。
「俺のせいですよね?」
数日前に聞かれて適当に返事をした。
三沢くんのせい。そう、実際そうなんだけど、三沢くんはどうでもよくて。
別に付き合ってるわけじゃないし、そんな可愛い笑顔見せられてもトキめかないし、そういう対象に見れないし、ただの後輩だし、これからどうこうなる予定もないし、そんな予感も気配もしない。
周囲の噂だけが大きくなりながら一人歩きしてる状態でそれが迷惑極まりない。
ただその噂も悪い方向になってないだけが唯一の救いで、こんなもの75日も待ってられない。