スターチス
バーの店内は薄暗く外観からは想像がつかないほど広く、数席のカウンターとソファー席があった。
三沢くんはマスターらしき方に挨拶をすると「こっちです」と一番奥の席へと案内してくれた。
「ジャケットかけますか?」
先に席に座ったあたしは三沢くんのそれを断って、三沢くんが自分のジャケットを掛けるのを見ていると背後から「いらっしゃいませ」と、さっきの男性が背後に立っていた。
「大知、久しぶりだな」
「ご無沙汰してます」
「こちらの綺麗な方は?」
「僕の会社の上司で、紗夜さんです」
「初めまして、村上紗夜です」と頭を下げると、一瞬目を見開き、三沢くんを見てもう一度あたしを見ると納得したように小さく頷いた。
なんだかわからないまま三沢くんを見てみるけど、視線を逸らしたままの三沢くんからは表情が読み取れなかった。
「紗夜さん」
あなたまであたしを名前で呼ぶの?!と顔を向けると、それはそれは優しく微笑んでいて、その表情がどこか三沢くんと似ていた。
「大知は私の甥っ子なんです。こいつは優しくて素直です。たまに子供っぽい所もありますが、それも愛嬌です。よろしくお願いします」
そう言って小さく頭を下げられた。
慌てて「いえ、こちらこそ彼には助けられていますから」と頭を下げた。
今思うともう少し言い方があったんじゃないかと思ったけど、今更遅い。
最後にお酒の強さやリキュールの好みや甘さなどを色々聞かれてカウンターに戻るとき、「紗夜さんの好みに合わせたオリジナルカクテルをお持ちします」と言って去っていった。
三沢くんと同じく身なりも話し方もスマートでこれが遺伝なのかと思った。
「見すぎです」
拗ねたような言い方に視線を三沢くんに向けると視線を外したまま唇を尖らしていた。
こういうところが可愛い。
ふふっと笑うと「なに笑ってるんですか」と拗ねた。
「カッコイイね、三沢くんの叔父さん。名前はなんていうの?」
あたしの言葉に眉間にシワを寄せて「知らなくていいです!」と怒る三沢くんがますます可愛く見える。
本当、三沢くんの傍にいると楽しいし和む。
それは三沢くんが自分の気持ちに素直で思ったことを表情にも言葉にもするからだと思う。
あたしには持ち合わせていない三沢くんの素敵なところ。
三沢くんみたいに素直に生きれたら、色々変わっていたのかもしれない。
「で、お話ってなに?」
少し感慨深くなった気持ちを紛らわすために三沢くんに問いかけた。
ここに連れてこられたのは三沢くんがそう言ったから。
三沢くんは顔全部で“今そんな話をしたいわけじゃない”と訴えながら「それはですね、」と溜息混じりに吐いた。
「新しい企画プロジェクトに参加させてもらうことになったんです。初めてなので見てるだけになりますけど」
「すごいじゃない。本当に見てるだけなの?」
「もちろんです!僕にはまだ無理ですから。それに佐藤先輩のバックがあって」
「あ、あのね?」
ずっと思ってたことがあった。
それは三沢くんに恒例行事がバレた日も思ったことだった。
気にしてたけど聞こうとは思わなかった。
もしかしたら、とは思ったけど、個人的な話になるだろうと思って聞けなかった。
「三沢くんって賢人と知り合いなの?あ、えっと、その仕事じゃなくてプライベートでって意味で」
「どうしてですか?」
「だって三沢くん、賢人のこと“佐藤先輩”って言うじゃない。普通は“さん付け”でしょ?」