スターチス


あたしの言葉に三沢くんは“しくじった!”とでも言いたげな表情で返事を返してくれた。

何があってそんな表情をするのかはわからないけど、関係があったのは本当らしい。
しかし、つくづく嘘がつけないらしい三沢くんは叔父さんがカクテルを持って来てくれた時に声を掛けられてビクつくのが面白くておもわず笑ってしまった。

「あー、高校の先輩なんです」
「そうなの!」
「偶然ですけど。その時も先輩はモテてました」

そうなの、と苦笑すると「紗夜さんだって、」と言って止めた。
その続きはわかったからあえて聞かないことにした。

「あの、」

三沢くんと賢人が高校の先輩後輩の関係だったことに驚きながらもカクテルに口を付けた。
グラスに口を付けたままで三沢くんの声に反応すると真剣な顔をしてあたしを見ていた。

どうしたんだろうと原因を探ってみるけど思いつかない。
もしかしたらプロジェクトの話を止めちゃったから?!と思ったけど、そうじゃなかったらしい。

「紗夜さんは忘れてるんですよね」
「なにを?」

一体なにを忘れたのあたし!なんて思ったところで、三沢くんに対して覚えていることなんてほとんどない。
同じチームではないものの同じ部署で毎日顔を合わすし仕事の話をすれば、どうでもいい話だってする。

そんなことを毎日繰り返してるのに一言一句を覚えていられるわけない―――と思ったのも検討違いだったらしい。

「やっぱり紗夜さんは社内恋愛しない、ですか?」
「・・・」
「俺はまだ役不足ですか?それとも対象外ですか?それとも、」
「ちょっと待って!」

なにがあったの?!って聞きたいくらい俯いて店内BGMで聞き取れないくらい小さな声。
なに喋ってるのかと思えば、いつの話をしてるの?!って内容。

三沢くんの言葉を遮ってみたものの続く言葉がなくて焦る。
話すのを止めたから顔を上げてくれた三沢くんはどこの捨て犬なのかと思わせるくらい眉を下げていた。

「あの、あのね?役不足とか言わないで」
「でも対象外ですよね?」

三沢くんは小さく溜息吐いて、「わかってるんです」と続けた。

「紗夜さんが社内恋愛を嫌うのは知ってます。それが佐藤先輩が原因だってこともわかってます。確かに俺は佐藤先輩みたいにかっこよくないし仕事が出来るわけでも、」
「ちょっと待って!」

二回目の“ちょっと待って”を言ったあたしは二回目も三沢くんを止めることができた。

黙って聞いてりゃ好き勝手言うんだろうし、完全に誤解してる。
それは説明しなきゃいけない。

「あたしは社内恋愛が嫌いなわけじゃない。出来ればしたくないって思ってるだけ。嫌いなら賢人と付き合ってない。あたしが社内恋愛を好まないのは賢人が原因じゃないし、賢人は何も関係ない。もちろん、賢人の容姿や仕事云々の話もね」

一息で言い切ると息を大きく吸い込んで三沢くんを見た。

「三沢くんがどうして賢人を出してくるのかはわからないけど、今この瞬間あたしの前にいるのは三沢くん。三沢くんは賢人じゃないし、賢人と比べる必要はない。そこまで賢人を出されるとあたしが賢人に依存してるみたいに聞こえるし、他の人が聞いたらあたしが三沢くんに賢人の代わりをさせてるみたいじゃない。あたしは今、三沢くんと一緒にいるんだけど?」

さらに気を落とす三沢くんはわかりやすく溜息を吐いた。

何をどう思ってんのか全くわからないけど、あたしだって三沢くんの気持ちがわからない。
今は“上司と部下”でそれ以上でもそれ以下でもない。
一緒にこうして飲みに行くだけの関係で深い関係でもない。

そういう細かい部分の違いがきっと三沢くんにはわかってもらえていない。

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