スターチス


賢人に何度も話を聞いてもらった。
今あたしの気持ちがどんなに複雑かを聞いてもらった。
賢人だからこそ理解してくれると思ったし、もちろん“元彼の助言”は効果バツグンだった。

『お前ハマったら抜け出せねぇもんな。俺の時みたいに…って痛ぇよ!殴るなよ!ま、待つのもアリだろ?アイツは気付いてないだけだ。気付けば事は早い。そのままベッドイン…って痛いっての!その、なんだ。お前は嫌だろうけど、自分からいってみたら?』

自分から行くってあたしが?このあたしが?って思ったけど、いくしか方法がないならいかなきゃいけないって思った。

あたしは自分から仕掛けることはない。
いつだって来るのを待ってから動いてた。
そんなあたしが自ら動くなんて!と思ったけど、色々考えたら仕掛ければいいんじゃん!と思いついた。

なんの話をしてるんだって言われそうだけど、あたしはすでに三沢くんに惹かれてる。
好きだとか嫌いだとかそういう意味じゃないけど、恋愛対象には入ってる。
それが社内恋愛とか年下とか全部省いても三沢くんは十分魅力的に感じてる。

賢人に相談した時点でそうだったんだと思う。

あと一押し。
あと一押しがほしい。

自分からは恥ずかしくて言えないから仕掛けるしかない。
それが失敗しても成功しても、それが結果だと受け入れるしかない。

項垂れたけど、すぐに顔を上げた三沢くんがあたしを見つめてる。
いまだに何を考えてるのかわからない三沢くん。

あたしが欲しいのはたった一言。
それ引き出すために簡単な一言を言わなきゃいけない。

「紗夜さん」

タイミングを考えてると名前を呼ばれて視線を向けると落ち込んで眉を下げてた三沢くんはいなくて、ただ真っ直ぐあたしを見てた。

なにかを吹っ切ったような真剣な瞳。
そんな真っ直ぐな瞳にあたしはドキリとする。

「紗夜さん、」
「うん」
「紗夜さん、あの、」
「…うん」
「あの、」

‥‥じれったい。
待っていたいけど、待てない。

結局、三沢くんよりもあたしの方がまんまとハマってしまったってこと、か。

「あたし、三沢くん好きよ」
「……へ?!」
「二度も言わないわよ」

驚いて目を見開く三沢くん。
口をあんぐり開けてあたしを見つめる三沢くん。

「ファーストネームは大知く、…ちょ、っえ?!」

面白くて調子に乗りすぎたんだと思う。
びっくりしてたはずの三沢くんが勢いよく立ち上がり、全てのバッグとかけていたジャケットを取って、あたしの手を取って店を出ようとする。

「ちょっとどこ行くの?!お金は?!」
「場所変えるだけです」
「は?!」

そう言ってスタッフルームと書かれた奥の部屋に入る。
ここって休憩室なんじゃないの?!と思ったのは一瞬で、扉の向こうを見て今度はあたしが目を見開く番だった。
だってここは、見た目からはわからないVIP席だったから。
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