スターチス
三沢くんはバッグとジャケットを放り投げると入り口に立っていたあたしの手を再度掴んだ。
「三沢くん?」
「紗夜さんは本当に…」
「え?」
「俺、もう我慢しませんから」
は?と思った時には真剣な瞳の三沢くんが視界いっぱいにいて、唇には―――。
「な、なに、を…」
「情けない……先に言われるなんて」
ぎゅっと抱きしめられて、あたしの肩に吐き出す息は熱い。
どちらのかもわからない強い心音。
抱きしめられる腕は強い。
でも吐き出す声だけが弱弱しい。
そんなギャップに思わず笑うと、怒ったのか悔しいのか抱きしめる力を強められて窒息するんじゃないかと思った。
「佐藤先輩の言うこと素直に聞いてりゃよかった」
「賢人の?」
「“早く告れ”って言われたんです。ていうか、“賢人”って紗夜さんの口から聞きたくない」
どうやら賢人にも嫉妬しているのか再び口を塞がれて、思わず笑ったら隙を突かれて深くなった口付けに身体がビクリとした。
「紗夜さん、好きです」
「もうキスした後だけどね」
「大好きなんです」
「あたしが先だけどね」
「…紗夜さん」
「なぁに?」
にっこり笑うあたしにとっても悔しそうな三沢くん。
そんな三沢くんを見て“こりゃヤバイな”と思った。
思った以上にハマってるらしいあたし。
この湧き上がってくる意地悪心は初めてだけど。
「俺、すっげぇ独占欲強いんです」
「そうなんだ」
「佐藤先輩にも妬きますから」
「は?」
「今度、会社で密会したら泣きますよ」
どうやら怒るを通り越して泣かれてしまうらしい。
そんな三沢くんも見てみたい、と思ったあたしは自分のどこにこんなSっ気があったのかと不思議に思った。
END