スターチス
歳が離れてるから、もしかしたらあたしが彼女なのが恥ずかしいのかもしれない。
女としてじゃなくて、女の子として見られてんのかもしれない。
好きなのはあたしだけなのかもしれない。
いつか捨てられるのかもしれない。

そんなことばっかり考えてしまう。
あたしは馬鹿だし単細胞だから、ちゃんと言葉にしてくんないとわかんない。

あたしが好きなら言葉や態度で示してほしいし、好きじゃないなら早めに手放してほしい。
家政婦のつもりだったら他の女でも十分だろうし、あたしより料理上手い女なら世の中にごろごろいる。

まだ黙々と食べ続けてる祐介を見てると視界がぼやけてくる。
どっからどう見たって、目の前であたしが作った夕食を食べてる男から愛情が感じられない。

最終的にはなんでこの男なんだろ、て思えてくる。
こんな男に惚れた自分に呆れる。

「ね、あたしのこと好き?」

もしかしたら、ちょっと震えてたかもしんない。だって祐介が顔を上げたから。
でも、また下を向いて箸をすすめた。

「好きなの?好きじゃないの?どっちなの?」
「それ、今答えなきゃダメなの?」

俺、飯食ってんだけど。




どこまでも勝手で、どんなに突っ込んでも突き返される。
あたしだって馬鹿じゃない。邪険にされて黙ってられるほど従順な女でもない。

黙って席を立って鞄も持って玄関に向かう。
明日も朝早いんだから、こんなとこで長居してる場合じゃない。

馬鹿男の横を通り過ぎて玄関で靴を履いてドアノブに手をかけて少し考える。
ここで一発文句でも言った方が少しは堪えるんじゃないかって。

でもそれは祐介があたしのことを好きな場合のみ有効で今の状況では悪化するだけかもしんない。
結果、考えるだけ無駄だと判断したあたしはドアを開けようとしたところで馬鹿男に止められる。

「送るか?」

いつ動いたのか、リビングへ続くドアに寄り掛かってタバコをふかしてる祐介にまたイラッとした。

この家まで電車で二駅。
職場とは反対方向だから定期は使えない。なら、

「当然でしょ?」

送ってもらうに決まってんじゃない。


すでにキーを持ってて元々送ってくれる気でいてくれたらしい祐介にまた腹が立つ。
その気があんなら聞くんじゃなくて「送る」くらい言えよって思う。

あたしばっかり与えるのもいいけど、それでも与えた分の少しでもいいからあたしにも与えてほしいって思う。
そういうもんだと思ってたけど、そうじゃないのかもしれない。

世の中うまくいかない事だらけなのかもしれない。
あたしと祐介もその一つなのかもしれない
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